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「ケ―ンゴぉ」

「………」


例の途上国に住むようになって約一ヵ月。

すでに通い慣れた県立高の一年三組、つまりは俺のクラスのドア付近から人の名前を呼ぶ声がした。

仕方なく顔をあげると、すでに見慣れた人物がニッコリと俺に微笑みかけてくる。


密かに沸き立つ教室内。
特に独特の空気を醸しだす女子の面々。

そんな周りの熱い視線に少しも気付く事無くクラスに入ってきたそいつは、俺の机の前で上履きの踵を履き潰した足を止めた。


「オイ、ケンゴ!いるんなら反応しろよ。
さみしーじゃん!むなしーじゃん!せつねーじゃん!!」

「なんやねんうっとい。
俺は今忙しいんや」


低く言ってまた机に広げた雑誌に視線を落とすと、頭上から抗議の声が降ってきた。


「は?忙しいって雑誌読んでるだけじゃん。
相変わらず冷たい野郎だな。
それよりケンゴ、今日の放課後暇?」

「何で」

「合コンいかね?
今朝近くの女子高の奴に声かけられてさ」

「行かん、めんどい」


んな事やろうと思った。
ったくこいつは相変わらず……。


冷たくあしらってやったのに、目の前の男は少しも怯んだ様子もなく俺のすぐ前の椅子に逆向きに座り込む。

そして嫌味なくらい整った顔を俺の方に向けて、少し覗き込むように首を傾けた。


その辺の女なら確実に落とせるだろうそのツラと仕草。
なんかちょっとイラッときたわ今。


「えー?そんなツレない事言うなよ。
4人集めなきゃなんねーのに、どうしても最後の一人が見つかんなくてさ。
カラオケだから適当に居てくれるだけでいーし。
な?頼むよ」

「カラオケ?
ますますお断わりや。
何でわざわざ好き好んで、糞みたいな素人の歌聴かなあかんねん」


腐るわ耳。
内蔵から朽ち果てるわ。