「あーなんやめっちゃドラム叩きたなってきた」


人の家やのに、我が物顔で床に大きく寝転びぽつりと呟くと、視界の端でシンがふと顔を上げた。


せや。
今一番欲しいのは生ドラムの音。
家にある練習用のパットやない、臓器をビリビリ痺れさす、爆音の――。

そんな気分や。


「……じゃあ、する?」

「え?……シン。
今なんて?」


と顔を向けた俺に示された景色は、携帯でどこかに連絡を取る、我がバンドイチ音楽狂いのギタリスト。

電話の相手は確実、俺ら馴染みのスタジオの店員やろう。

無事に予約をとれたっぽいのが、微かに弾んだシンの低音ボイスからわかる。


「……ほら、行くぞ」


いつの間に通話を終えて、ギターケースを担いで颯爽と立ち上がるシン。

二つの目はすっかり戦闘態勢そのもの。

――あかん。
何やお前
笑わすなや。


「ふはっ、凄いなお前。
さすがに俺も“ポカーン”や」

「は?何が?
行かないなら俺1人で行くけど」

「行くわ!
行くに決まってるやろ」


急いで起き上がって玄関に向かう俺の背中で、シンは面倒くさそうに長めのダークブラウン髪を掻いた。


「あ……一応あいつらにも声かける?」

「いやいらん。
あんな色ボケカップル。
せっかくやし二人でめっちゃええ曲作って、あいつら後で悔しがらそうや」

「……ふ」


さっきまでとは真逆の沸き立つ感情。

そうしてシンと二人夜の道を歩きながら、俺はやっとミヤとの関係に終止符を打つ事を決めた。

“舌の根の乾かぬうちに”とは正にこの事やな。
呆れるなら勝手に呆れろ。

――やって俺は結局こんなやし。
音楽以上に大事なもんなんか必要ない。

必要ないんや――。