当然柳田と変な事は起こらんかった。


っていうか、もしそんな事になってたら俺は一生自分の事、許せんかったやろう。


ライブ後で少し気分が高揚してるとはいえ、ミヤとの事もまだ何となく俺の中で引っ掛かりがあんのに。
昔の記憶で弱ってるコイツの傷に入り込んで一時の感情に流されるような事。


第一俺は柳田を好きやないし。
逆もまた同じ。

――ってもまあ。
あの夜の事があって、それまでの俺の中の柳田像が崩壊されたのは間違いないけど。


「なんかねうちのお母さん、あんたの事凄い気に入ったみたいよ。
また連れてこいって」

「や、慎んでお断りするわ」


とか。
中身のない会話をしながら並んで道を歩いてたら。

俺らの遥か前方。


「あ、あれミヤちゃんじゃない?
今日もやっぱり可愛いわ〜。
でも少し元気ない感じ?
まったく、こんなロクデナシ男なんかさっさと忘れちゃえばいいのに」

「…………」


タケとミヤ。
隣同士のこいつらが一緒に登校してくる朝の馴染みの風景。

けどミヤの纏う空気は、いつものパワーの半分も出てないような、そんな気がする。


一方二人の間の関係性は、いつもと何ら変わらない様子で。

……ったく、タケの奴。
何ちんたらしてんねん。


「……なあ、柳田」

「ん?」

「手、つないで歩こうか?」

「なっ!!」


一瞬絶句して人の顔を見上げ、やがて顔をしかめて毒づく。


「……あんたって本当鬼だわ」

「今ごろ気付いたん?
ほら、約束やろ。
左手だせや」

「あーハイハイ」


投げやり気味に差し出されたそれをしっかりと握り締めた。


手繋ぎ登校なんて俺のキャラやないけど。
と、内心では半ばやけっぱちの状態で。


「……ホントにこれでいいの?
今ならまだ間に合うかもよ」


返事の変わりに右手に力を込めると、今度は呆れたようなため息が聞こえてくる。


「明日から化粧ぐらいしてこようか?」


って。
何余計な気遣ってるん?

軽く笑って言葉を返す。


「そんな発言お前らしくないし。
ええから、そのままで」