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「音に迷いがある」


翌日の夜。
馴染みのスタジオに集合してのバンド練習。

アキ作の新曲の練習が一息ついた時、ベースを抱えたリョウが開口一番に言い放った。


「え?俺」

「そう、お前。
ケンゴのそんな音初めて聴いた。
何かあった?」


返答に困る質問。
あったと言えばあったけど、わざわざこいつらに打ち明ける必要はない。

それにしたってこの男。
耳がよくて困る。
俺自身は何の自覚もなかったんに。

……って自分の事だからこそ余計にわからんのか。
情けないなほんま。


「……悪い。
何もないし」

「え?別に謝んなくてもいいんだけど。
今のも悪くなかったし。
でもお前っぽくない音だったから驚いただけだから。
逆にそんなお前もオモシロイ」


ニヤニヤ笑って顎を撫でる。

……もしかしたら今俺の回りで起ってること、全部知ってたりするんやろか。

タケはリョウの舎弟みたいなもんやし、アキから何か聞いた可能性だってある。


ペットボトルを持ちながらマイクスタンドの前に立つアキ。

リョウの肩ごしに彼女に視線をやると、慌てたように首を左右に振った。


そんなんせんでも別に怒らんのに。

一方シンは自分のギターの音以外興味ナシ。
これはいつもの事。


「ほんま何でもないねん。
昨日ほとんど寝てへんから、ちょっと寝不足なだけや」

「ふーん、そっか」

「ちょっと5分くれ。
頭切り替えてくる」

「ん〜」


すでに興味半分になって、シンに向かって話しかけてる。
イントロの音を変えたいとか何とか。


それでもまだアキの心配そうな視線が俺をとらえ続けてて。

だからそんな目で見んやな。
大丈夫やし、全然。