西の狼




「……逃がしちゃっていいの?」



「うん…魔界の魔獣は、敵を見つけるとまず最初に魔王のところに報告するんだ。」




「魔王……」



「僕はその魔王に用があってね。君も、魔王に会ってみるといいかも知れないね。」













「………これは……」




あの傷だらけの魔獣は傷だらけの体を引き摺って主の下へとやって来た。


その魔獣を発見したのは、魔王の側近の一人だった。



「……駿足と獰猛さで知られる魔獣ラウガが、ここまで傷を負うとは……魔王様に、報告しなければ…」




「どうかしたか、アルナス……」



男が魔王に報告しようと振り返った時、奥から誰かが出て来た。


その声を聞いた途端、アルナスは片膝を着いて頭を下げた。







「……魔王様……」





そう、この男………





黒髪に血の様に紅い瞳の男こそ、魔界を統べる最強の男なのだ。






「……何かあったのか?」



「は……偵察として放たれていたラウガが一匹だけ戻って来たのですが……」



アルナスがそこまで言うと魔王はその後ろに控えているラウガを見つけた。



「……それが、そのラウガか…」



「…は……どうやら、何者かの襲撃を受けた様子でして……」




「……レムだな…」



「は?」



魔王はアルナスが聞き取れないぐらいに小さな声で呟くとまた踵を返して奥に戻っていった。




「あ、魔王様……」



「そのラウガは休ませてやれ。それと、代わりのラウガを放っておけ。他のラウガは全滅したのだろう。」



「……はっ…」



魔王は奥に戻っていった。


「…レム……まさか、あのレムか…?」



アルナスはラウガを近くの衛兵に任せてその場を立ち去った。