西の狼



「わ…っ!」


「っ、と……」


勢い良くベッドから引っ張られたレオンはレムに受け止められた。

「…さあ、行こう。」


「え……」




「…どうかしたのかい?」




「……着替えたいんだけど…」



思わず吹き出しそうになったレムはレオンの全身を見てすぐに納得した。


「…それもそうだね。じゃあ、はい…」


レムが笑顔で人指し指を軽く左右に振ると、レオンの体を光が包み込んだ。


「う、わ……っ!?」



レオンは光から逃れようともがいたが光は勝手に消えた。


「………これ………」



レオンは自分の服が変わっているのに気付いた。


それはレムのものと似通ったデザインの白い服だった。


「魔界は、何かと物騒だからね。その服には、結界が張ってあるんだ。何かがあっても、君には傷一つ付けさせはしないよ。」



「……ありがとう…」



「……どういたしまして、皇子様。さぁ、行こう。」



「…うん。」



レオンはレムの手を取った。



レムは空いている左手を伸ばした。


「拓け、異界の門よ…我が身願うは魔界へ通ずる道なり…」



レムが小さく呟くと、左手を中心に魔方陣が出現した。その魔方陣の向こう側には、紅い扉があった。


レムはその扉を手を触れずに開いた。その向こうには薄暗い空間が広がっている様だ。


「……行こう、レオン君…」



「うん。」



レオンはレムに引かれるままに、扉を潜った。


二人が扉を潜ると、扉は勝手に閉まって跡形も無くその姿を消した。









「……お坊ちゃま……」

ダリルはレオンの部屋の様子を見に来た。しかし中から返事は無い。


「……お坊ちゃま…?」

ダリルはドアの鍵を開けて中に入った。その光景には、ただ愕然とするしか無かった。


「お坊ちゃま…!?」


部屋の中には、居るべきレオンの姿は無かった。