青年は軽く溜め息を吐いて少し笑った。レオンは状況が全く理解出来ない。
「はぁ……迎えに来たんだ。約束の皇子である、君をね。」
「……皇子……?」
レオンが首を傾げる。
「そう……世界に定められた、犠牲の上の平和を世界にもたらす、約束の皇子……君は、世界の意思に選ばれたんだよ。」
青年の発する言葉の意味が分からないレオンはまだ眠そうだ。
「でも、世界を救うにはまず敵のことを知らなくちゃいけない…僕は、君に世界の敵を教えるために来たんだ。」
「……バイオリンの、お兄さん……?」
ぼやけていた意識がはっきりしてきたレオンは目の前の青年が誰なのかようやく理解した。
青年は柔らかい笑みを浮かべた。
「……そう。いつも君は、僕のバイオリンを聞きに来てくれたね…嬉しかったよ…でも僕は人間じゃない…」
「人間じゃ、ない…?」
「そう……僕の名は、レム…世界を創造した大精霊の一柱……光の大精霊なんだ……」
自分のことをレムと名乗った青年の背中には、淡く白い炎を纏う美しい純白の羽が四枚生えていた。その体も、淡い白い光を纏っている。
「……本当に…大精霊……」
驚くレオンを見つめるレムの顔は、少し哀しそうな顔をしている。
「……さぁ、行こうレオン君。」
レムは優しく手を差し出した。レオンはその手と顔を交互に見た。
「……え……どこに…」
「……魔界に、だよ…」
「…魔界……?」
「敵を知るには、その目で直接見た方がいいからね。」
レムは差し出した手を少しレオンに近付けた。レオンはその手を掴んだ。力を込めると、すぐに砕け散ってしまいそうな、華奢な手だった。だがレムはそんな華奢な手からは想像出来ない力でレオンを引っ張った。

