西の狼



「……そうだな。」


「…では、お休みなさいませ。」


「…あぁ。」


ダリルは静かに部屋から立ち去った。


「……はぁ……」


ガラルドは椅子の背もたれに体重を預けた。

「……あいつには、酷な運命かも知れんな……剣聖の教えを受け、その身には……覇王の血が流れている…俺は、あいつを……守り切る自信が、無い……ッ!」


ガラルドは誰にも聞こえない様に声を押し殺した。


「……無力とは、罪深いものだな……」


その部屋の窓から差し込む満月の光は、ガラルドを優しく照らしていた。











室内を薄い月明りが照らす部屋。その中央には、大きなベッドが置かれている。その中には、レオンが気持ち良さげに眠ったいる。


「……う…ん…お父様……」


そう寝言を漏らすレオンの顔は、幸せそうな顔をしている。その寝顔を眺める、一つの人影が、室内の一角に暗い影を作り出している。


「…幸せそうな夢を見ているんだね、レオン君…」


その人影は、そう言いながら優しくレオンの頬を撫でた。レオンはくすぐったかったのか、体を少し揺らしたがまたすぐに寝静まった。


「……この子が、約束の皇子だなんて…世界も、酷い運命を与えたものだね…」


その人影は、白い礼服に金髪と、傍から見れば女性ともとられかねない整った顔をしている。だがその声は、優しい青年の声だ。


「…さぁ、起きて…レオン君…」


青年は優しい手つきでレオンを揺すった。


「…う…ん……」


レオンは眠そうに目を擦りながら上体を起こした。その焦点は次第に青年へと引き寄せられていく。


「………」


そして、青年の前で止まった。


「………………」


「…やあ、レオン君…」

「…………………………………誰……?」


「…君、目覚めはかなり悪い様だね……」