西の狼



「……禁断魔法…あのブラーニング卿が、あんなことを言い出すなんて……」


女王は、ガラルドが弱気なことに驚いた。英雄と呼ばれ、事実公国の窮地を幾度と無く救ってきたあのガラルドが吐いた弱音は、女王の心に少しばかり不安感を募らせた。







「……あ、お父様!!」


屋敷に戻ったガラルドを出迎えたのは、レオンと妻のタリアと、執事長のダリルだった。レオンは父の姿を見つけるなりいきなりタックルにも等しい勢いで抱き付いた。


「おぅ、レオン……しばらく居てやれなくて悪かったな。」


ガラルドはレオンの頭を撫でた。撫でる度にレオンの金色の髪が指の間をすり抜けていく。


「お帰りなさいませ、旦那様。」


「お帰りなさい、あなた。」


レオンの後ろから二人が声をかけた。


「おう。ただいま。」


ガラルドはレオンが寝るまで側にいてやった。レオンが寝静まったのは、実に二時間後だった。



レオンが寝たのを見てガラルドは自分の私室に戻った。


「……はぁ……」


埃一つ無い椅子に腰掛けて一息吐いていると、そこにダリルが静かに部屋に入って来た。

「…お疲れ様でございました。」


「あぁ……俺がいない間、レオンはどうだった?」


「良くお勉強なされていましたよ。鍛練もしっかりと続けておられました。まぁ、たまに抜け出すことはございましたが、その時は大抵近くの公園でバイオリン弾きの青年のバイオリンを聞きに行ってらっしゃいますので、それも一つのお勉強でございましょう。」


「そうか……」


ガラルドが気の無い返事を返すと、ダリルは急に重い口調になった。


「……ですが、本当に宜しいのですか?」


「何がだ?」