西の狼

「そうか……私はその後に森に入り、そこで帝国兵に襲撃されていたこのマルゼリア連邦の大使達を保護致しました。そして、ここまで連れて参った次第でございます。」


アイナがそう言いながら脇に動くと、後ろからクライスが前に出た。


「マルゼリア連邦大使として参りました。連邦軍第三小隊小隊長、クライス・ヒルデリアです。」


クライスは軽く頭を下げた。


「……そうですか。ご苦労でした。大使の方々も、今日は城内でゆっくりとお休み下さい。」


クライス達とアレン達は兵士に案内されて部屋から立ち去った。残ったのは、アイナとガラルドだけだ。


「……しかし、まさか大精霊自ら創造した魔導具を受け取ることになるとはな……」


「あぁ…これほどの魔力を纏った魔導具は初めて見た。」


「…………」


「…どうした?」


「……もしかすると、これがあれば……『禁断魔法』が使える様になるんじゃないか……と思って、な。」


その呟きで、アイナと女王の顔色が一転した。


「…お前……禁断魔法を使うつもりか…!?」

「……だが、実際必要になるかも知れない…そうなってからじゃあ遅いだろう。」


「…確かに、後手に回るのは避けたいが……だからといって、禁断魔法にまで手を出さなくとも…」


「……それだけ、状況は切迫してるんだよ。それに、帝国が今のまま何もしないでいるわけがないからな。」


「……その時が来ないことを祈ろう。」


「……俺も、そうしたいがな…」


「…そうならない様に、私達も全力で帝国と戦わなければならないのです。」


「…えぇ。勿論です、女王陛下。」


「お二人とも、ご苦労でした。お二人も今日はお屋敷にお戻りなさい。大事な話は、また明日大使達を交えてからにしましょう。」


アイナとガラルドは、女王の厚意でその日は屋敷に戻った。