西の狼



アイナ達が馬を走らせてから、何時間が経ったのだろうか……出発した時にはまだ東に傾いていた太陽が、今はもう西に傾いていた。

「……だいぶ日が傾いて来ましたね…」


クライスが前を走るアイナに呟いた。


「……見えたぞ。」


アイナがそう言って急に馬を止めた。後ろのクライス達と紅薔薇騎士団も馬を止めた。アイナが指差したその先には、確かに城壁の様なものが見えた。


「あれが…公国…」


クライス達が惚けていると、近くに突然火の玉が降って来た。


「!?」


火の玉は直撃はしなかったものの、クライス達の近くに落ちて煙を上げていた。


「何だ…!?」


ケルビンが馬の上で辺りを見回すと、まだ距離があるが、かなり後方から帝国兵の一団が追って来ていた。


「走れ!」


アイナの声で全員馬を走らせた。その間にも後ろから幾度と無く火の玉が降って来たが、何とか当たらずに城壁の側まで来れた。しかしそこに一際大きな火の玉が降って来た


「!?おいおい、冗談だろ!?」


その火の玉はアイナ達を飲み込めそうな程巨大だった。


「くっ……!?」


それでも必死に馬を走らせるアイナ達だったが、火の玉は容赦無く近付いて来る。


「ち、ちょっと!隊長、どうすんの!?」


ニナが怯えた声でクライスを呼び続けた。しかしクライスは愚かアイナまでもが無言だ。その時……







カ………ッ!!



アイナ達の頭上まで来ていた火の玉が何の前触れも無く破裂した。

「!?何だ?」


ケルビンはその瞬間、確かに見た。


「……あれは……」


それは、公国の城壁から伸びていた。


「…風属性の、魔法光……?」


それは、確かに風の魔法が放つ碧色の光だった。だが、その光は直線の様にまっすぐ放たれていた。それ事態は特筆すべき事では無いが………