西の狼

「いえ、私は……すこしばかり早起きしてしまいまして……眠気覚ましに散歩していたら、ここを見つけたもので………」


「……そうですか……」

アイナは特に何を言うでも無くクライスの隣りに立った。二人の間に奇妙な沈黙が横たわったが、その沈黙を先に破ったのはクライスだった。


「……この国は、良い国の様ですね……」


「……何故ですか?」


突然のクライスの発言にアイナは興味深そうに聞き返した。しかし、答えは全くの予想外だった。


「……風が……優しい、穏やかな風が吹いていますから………」


「……風……?」


「えぇ……風は、その土地によって表情を変えます。時に厳しく、特に静かに……そして時には、優しくその地に住む人々を撫でていくのです。」


そう語るクライスの横顔は、まるで吟有詩人のようだ。


「……なるほど……では、連邦に吹く風はどんな表情をしているのですか……?」


「……我が連邦には……気高く、力強い風が吹いていますよ。」


「……そうですか……」

そんな他愛も無い会話をしていた二人のところに、アイナの部下がやって来た。


「……そうか。クライス殿。」


「何か?」


「野営に戻りましょう。朝食の準備ができた様ですから。」


「朝食……」


良く考えてみると、クライスは自分がかなりの空腹であることを今更思い出した。


「……では、お言葉に甘えましょうか…」

二人は報告に来た部下と一緒に野営に戻った。野営に戻ると、アイナの部下達がせっせと朝食を並べていた。並べられた複数のテーブルの一つには、ケルビン達がもう座っていた。


「あ、隊長!!遅いよ!」

ニナがクライスを見つけるなりいきなり怒鳴って来た。

「いやぁ、ごめんごめん。」


クライスは怒るニナをなだめながら同じテーブルについた。