西の狼

「…聖獣ねぇ…まさかそれで信用出来ると思ってんのか?」


「聖獣は、心の清い人にしか懐かないからね。聖獣と一緒なら、それだけでも信用出来ると思うよ?」


「……ま、お前がそう言うんならしょうがねえな…」


「うん。じゃあ、今日はもう休もう。」


「あぁ。そうだな。」


四人は用意してあったベッドに潜り込んだ。四人が深い眠りに就くのに、そう時間はかからなかった。









「………うっ……」


薄いテントの布地を透かす朝日に、クライスは目が覚めた。身を起こしてテント内を見回すと、まだ他の三人は寝ていた。


「……起こすのも、悪いかな…」


クライスは三人を起こさない様に静かにテントから出た。他のテントからも物音がしない。どうやらまだ誰も起きていない様だ。


「……少し、風に当たろうかな……」


クライスはそう思い立って野営から出た。勿論腰には剣を提げている。しばらくテントの回りを歩いていると、この野営がガレット森林地帯のすぐ近くに築かれているのが分かった。更に歩くと、小高い丘が見えた。クライスは何気なくその丘に登った。丘の上からは、ガレット森林地帯が一望出来た。寝起きのクライスの頬を涼しい風が撫でていく。


「……いい場所だな……これが、公国の風か…優しい、穏やかな風だ………」


頬を撫でる風の心地良さに目を瞑っていたクライスは、不意に誰かが丘に登って来る気配を感じた。しかしクライスは剣に手をかけなかった。それどころか気配の主が登って来るのを待っていた。そして、気配の主がクライスの側に来た。クライスはゆっくりと、しかし振り返らずに目を開けた。


「……こんな朝早くから散歩ですか?……ランスリッター卿……」

その気配の主は、アイナだった。


「えぇ、まぁそんなところです。貴方もですか?」