西の狼

「…まだ遠いけど…五、六人くらい…」

「五、六人か…ケルビン、弓を構えろ。」

「はいよっ!」

ケルビンと呼ばれて前に進み出たのはアリアの隣りに座る人間だった。立ち上がって、背はクライスより少し高い。ケルビンはクライスの前に片膝を着いて弓を構えた。クライスがその肩に右手を乗せた。その右手が青い燐光を放っている。どうやら魔力を注いでいる様だ。

「ニナ、方向は分かるかい?」

「…こっちだよ!」

クライスとケルビンはニナが指差した方向に弓を向けた。

「行くよ、ケルビン…」
「…おうよ…」

二人は互いの魔力を弓に注いだ。すると何もないケルビンの右手の中に青い光の矢が現われた。ケルビンは矢を弓の弦にかけて一気に弦を引き絞った。

「…今だ!」

「おう!」

ケルビンはクライスの声に答える様に矢を放った。放たれた矢は木々の間を縫って進み、見えなくなった頃に小さく爆発した。

「当たったな…」

「…ニナ、まだニオイはするかい?」

「ちょっと待って……!?な、何これ…!?」

「どうしたよ、嬢ちゃん?」

軽い調子のケルビンの問い掛けなど聞こえていないかの様にニナは同じ方向を凝視している。

「…ヤバいよ…何か分かんないけど、かなり嫌なニオイがする…多分、人間じゃないと思う…」

そう言ったニナの声は、微かに震えていた。
「…ケルビン、そのまま弓を構えててくれるかい?」

「あいよ…」

クライスはケルビンの肩から右手を退けた。その右手で腰から剣を抜いた。

「…全員、戦闘準備を…どこから来るか分からないからね…」

クライスの指令通りアリアとニナも武器を構えた。ニナは二振りの短剣、アリアは身長よりも少し短い短槍を構えた。四人が周囲を警戒していると、ケルビンの目の前に空から大きな何かが降って来た。