西の狼

「…その使命…受け入れよう…」

アイナはホーリアと一緒に野営に戻った。

「馬を用意しろ!野営はこのまま、大使を迎えに行くぞ!」

アイナの号令で部下達がせっせと野営から出て馬に跨がった。

「行くぞ!」

アイナ達は馬を駆って森を駆け抜けた。





「…この森は、いつ来ても薄暗いな…」

そう呟く人影の後ろには、数人の人影が馬に跨がって従っている。皆、黒いローブにフードを被っている。そのせいで顔が良く見えないが、月明りに照らされた背中には赤い丸に四角と三角形が組み合わさった模様が見える。

「…かなり歩いて来たが、まだ公国は遠そうだな…この辺りで今日は休もう。」

先頭が止まって馬を降りると後ろの数人も馬を降りた。そして一人が素早く火を起こした。数人は火を囲んで円になって座った。

「…しかし、随分遠くまで来てしまいましたねぇ、クライス?」

火に魔力を注いでいる一人が言った。声からして若い女の様だ。

「そうだな…任務とはいえ、この森に入るのはあまり気分が良いものではないな…」

「…そうですね…」

「…お腹空いたなぁ…」
そう呟いたのは火に魔力を注いでいる女の向いの小柄な人物だった。その声は、まだ幼さが垣間見える女の子の声だった。

「じゃあ、何か食料を探そうか。また、ニナの腹の虫が騒ぐ前にね?」

クライスと呼ばれた男はそう笑いながら立ち上がった。

「うぅ、隊長のイジワル…」

ニナとクライスが呼んだ少女はむくれて地面に寝転んだ。しかしまたすぐに飛び起きた。その顔はさっきまでお腹を空かせていた少女とは思えない程強い眼光を湛えていた。

「…どうした?」

「…嫌なニオイがする…これ…帝国の奴等だ!」

「…アリア、火を消すんだ。ニナ、敵は何人いる?」

ニナはそれに答える様に鼻を動かしてニオイを探っている。