西の狼

「大精霊は、一人ではないのか…?」

「勿論だ。我が主と闇の大精霊以外にも複数の大精霊が世界の創造に関与なされている。我が主は炎の大精霊ボルカニア様だ。他にも、今は風の大精霊ハイリア様がブラーニング家の当主の下に使いを送っているはずだ。そしてお前と同じ様に大精霊の魔導具を受け取ったはずだ。」

「ガラルドか…それで、その帝国を我々が滅ぼせと?」

「あぁ。いずれ我が主と他の大精霊達がお前の国へと降り立つことになる。その時、全てが明かされるだろう。そして我々は、『約束の皇子』を迎えるのだ。」

「約束の皇子…?」

聞き慣れない単語にアイナは思わず聞き返したが、ガイゼリアは何も言わずにフードを被った。

「…それも、いずれ分かる。」

ガイゼリアはそれだけ言ってまた風と共に姿を消した。

「…どうやら、帝国は大精霊すらも敵に回した様だな…哀れなことだ…戻ろう、ホーリア…」

ホーリアは低い嘶き声を上げてアイナと一緒に野営に戻った。

「…世界をかけた戦い、か…随分と大事になってしまったものだ…なぁ、ホーリア。」

アイナが呟きながらホーリアの首を撫でると、ホーリアも気持ち良さげに首を擦り寄せてくる。

「…お前も、感じているのか…世界の軋む声を…このままでは、世界が崩壊してしまうかも知れない…これが、魔界と魔族に関係しているのか…」

アイナはホーリアを撫でていた手で懐からさっき貰った指輪を出した。

「…大精霊達の意志が、世界の存続ならば、闇の大精霊の意志は世界の滅亡…いや、支配か…?」

そう呟くアイナの手の中では焔獄の指輪が煌煌とした光を纏っている。

「…これが、私に課せられた使命だと言うのならば…従わざるをえんな…」

アイナはそっと指輪をはめた。それだけで、体中を莫大な量の魔力が巡るのが分かった。