西の狼

｢!お前、人間ではないな…｣

アイナは目の前の相手から人の気配を感じることが出来なかった。しかしその代わりに人のものとは思えない圧倒的な存在感を感じていた。

｢…あぁ、その通りだ…｣

目の前の相手から放たれた言葉は、確かな重みを持ってアイナの体を震わせた。その声から男であることが分かる。

｢我が名はガイゼリア…偉大なる創世の大精霊に仕える者だ…｣

男はゆっくりとした動きでフードを取った。月明りに照らされた男は、短いワインレッドの髪と金色の瞳をしている。その瞳には、圧倒的な強さが感じられる。

｢大精霊の使い…失礼した。｣

アイナはホーリアから降りて剣を収めた。

｢…分かって貰えた様だな…私はお前の敵ではない。｣

｢あぁ…だが、なら何故こんな場所に…｣

｢我が主よりこれを賜って来た。｣

ガイゼリアは懐から何かを取り出してアイナに差し出した。アイナはそれを受け取った。それは、紅い宝石がはめ込まれた指輪だった。しかしその指輪からは濃厚な魔力が溢れている。

｢この指輪は…｣

｢それは、『焔獄の指輪』…我が主がお創りになられた魔導具だ。炎の魔法を強化する性質があり、指輪をはめた者の魔力を底上げする力がある。｣

｢大精霊の、魔導具…これが…｣

アイナは思わず見入ってしまいそうになったが、指輪を懐にしまってガイゼリアに自分が抱いた疑問を聞いた。
｢…なぜ、大精霊は私にこれを…｣

｢…今の帝国は、大精霊のご意志に反した行動をとっている…帝国は、魔族の力を得ようとしている。｣

｢魔族…？｣

｢この世界を光の世界とするならば、闇の世界に当たるのが、『魔界』と呼ばれる世界だ。そして魔界に住む存在を総じて魔族と呼ぶのだ。我が主が世界を創造なされた時、闇の大精霊が魔界を生み落とした…｣