西の狼

「…はぁ…キールはキールで相変わらず無愛想だしよぉ…」

「…何だと…?」

キールと呼ばれた男は怒りを含んだ声を漏らした。その声は今にも腰の剣を抜きそうな勢いだ。

「いい加減にしないか、二人共…仕方ない。この辺で休憩に…」

アレンが馬を止めて振り返った瞬間、両脇の崖の上から数人の人影が降って来た。その手には鈍く光る剣が握られている。

「!?しまっ…」

突然のことに、誰もが反応が遅れた。それでも人影は距離を詰めて来る。

「…伏せろ!」

「!?」

咄嗟にアレン達は馬の上で身を屈めた。その頭上の人影達をどこからか飛来した魔法が吹き飛ばした。

「!?」

あまりの突然の出来事にアレン達は言葉を失った。人影達は吹き飛ばされて岩肌に激突していたり、むき出しの岩に突き刺さっている者もいる。もう息は無いだろう。

「走れ!」

アレンは耳元に響いた言葉に素直に従い部下達と馬を走らせた。

「おい、アレン!一体何が…」

「私にも分からん。だがあれは恐らく帝国兵だ。やはり見張られていた様だな…」

「じゃあ、あれは味方なのか?」

「恐らく公国の人間だろうな。しかし今はそれより…」

アレンは後ろから追っ手が迫っているのに気付いていた。その追っ手達の手には、さっきの人影達と同じ剣が握られていた。

「…数が多いな…」

馬の上で対策を練っていると前から一頭の馬が走って来るのが見えた。背中には白い鎧を着た男が跨がっている。

「挟み撃ちかよ!?」

「いや、あれは…」

狼狽するグランをなだめて、良く目を凝らした。しかしそれが誰か特定する前に白い鎧の男は馬を走らせた。襲いかかって来るとばかり思っていたグランは剣を抜いていたが、男男はアレン達に見向きもせずに上を馬でジャンプして通り過ぎた。