西の狼

「大精霊の、魔導具…」
「左様…故に、扱いには注意召されよ。風とは、元来人が扱えるものではありません…強引に従わせれば、手痛いしっぺ返しを受けることになりますからな。」

「…あぁ、肝に銘じておこう。」

ハリムはガラルドの返事に満足したようだ。
「…貴君を選んだ我が君は、正しかった様ですな…では、私はこれで…」

ハリムは軽く会釈して姿を消した。

「…大事に使わせて貰うとするか…よし、行くぞ!」

ガラルドの号令で部下達が進軍を開始した。








「…何とか、ここまでは無事に来れましたな…」

先頭の人間の後ろにいる人間が先頭の人間に呟いた。その声色からして年老いた男性だと分かる。

「あぁ…しかし問題はここからだ…」

それに答える声も、男には変わりないが確かな意志を秘めた、それでいて穏やかな若い声だった。馬に跨がったその集団は深くフードを被ったせいで顔は見えないが、代わりに背中のマントに描かれた紋章がどこの所属か表していた。三本の剣が交叉し、その回りを多数の星が囲んでいる。これは、共和国の紋章だ。真ん中の三本の剣は共和国内の三大勢力を表し、回りの星は統合された小国や村等の数を表している。その集団が渓谷を進んでいる。

「…しっかし、遠いもんだなぁ、公国はよぉ…」

集団の真ん中辺りの人間が溜め息混じりに呟いた。

「そう文句を垂れるな、グラン。」

先頭の男が穏やかな口調で制した。

「だけどよぉ、アレン…こいつはキツすぎるぜ…これなら、山岳警備の方がマシだろうよ…」

グランは声からかなり参っているのが分かる。

「…グラン、少しは静かにしてくれないか。分かっているんだろうが、それもこれも仕事だ。」

グランの後ろにいた男が静かに諭した。