西の狼

しかし老人は動く気配が無い。

「…?おい…」

ガラルドがもう一度声をかけようとしたが老人が動いたことで言葉を呑んだ。黙って見ていると老人は渓谷の入り口で止まった。

「…?」

「…この様に邪悪な呪いが…嘆かわしいことじゃ…」

老人はガラルド達が聞こえない小さな声で呟いた。それと同時に杖の先を地面に鋭く打ち付けた。すると甲高い音と共に老人の足元に緑色に輝く魔方陣が出現した。

「!?」

凄まじい強風が吹き荒れる中、吹き飛ばされないように耐えていたガラルドは、強烈な光景を目にした。

「な…!?」

渓谷の入り口に黒い巨大な魔方陣が現れ、それが次の瞬間に粉々に砕け散ったのだ。黒い魔方陣が消えると同時に強風も止んで老人の魔方陣も消えた。

「…あんたは、一体…」
ガラルドが小さく呟いた。それに答える様に老人が振り返った。

「…これで呪いは解かれたはず…そうですな、ガリオ様?」

突然聞かれたガリオだが、特に慌てた様子はない。

「…あぁ、そうだな…」
老人はガリオの答えに満足そうだ。

「私は、偉大なる創世の大精霊、ハイリア様の臣下の一人…名をハリムと申します。貴君への助力を、我が君より賜って参った次第でございます。」

「俺の…?」

「左様…今はこれしか出来ませぬが、いずれ我が君と他の臣下達と共に貴国に参ることになります。」

「公国に…大精霊が来るのか?」

「はい。ですがまだその時ではないのです。しかし、我が君より貴君にこれを受け取って参りました。」

そう言いながらハリムは手を差し出した。その手には小さな指輪が握られている。ガラルドはその手から指輪を受け取った。手にした瞬間、ガラルドの体を濃密な霊気が巡った。
「こ、これは…」

「裂界の指輪と申します。我が君によって作られた魔導具でございます。」