西の狼

「全く…まだお勉強が残っていらっしゃるのに家を抜け出すとは…そこまでお勉強がお嫌いですか?」

「だって、ずっと家の中なんだもん…それに、あの人のバイオリンが聞きたかったんだよ。」

「それは、先程の青年ですかな?」

「うん。」

「確かに、あの音色は心に響きましたなぁ。私も、あの様な美しい音色は初めて聞きました。」

「そうでしょ。」

「…しかし、あの音色は本当の弦の音色ではありませんなぁ…」

「え…?」

「確かに、心に響きましたが…あれは恐らく魔導具の一種ではないかと…」

「魔導具…?」

「はい。魔法鉱石を大量に使用した道具でございます。その形状は剣や盾の様な武具だけではなく、あらゆるものが魔導具となり得るのです。」

「例えば…バイオリン、とか…?」

「…あるいは、そうなのかも知れませんなぁ…しかし、魔導具は担い手を自ら選ぶため扱いが非常に難しく、扱えたとしても、飲み込まれない様な強靱な精神力が求められるのです。」

「じゃあ、あの人は…」
「…いえ、単なる私の勘違いかも知れません。お忘れ下さい。」

「…うん…」

そうこうしていると、馬車が止まった。降りると家の前だった。

「さぁ、戻ってお勉強の続きですよ。」

「…はぁ…」

二人は家の中に入って行った。






草一つ生えない荒野を、馬に跨がった騎士の一団が駆け抜けていた。先頭には、背中に大振りの剣を背負った男がいる。その脇には一匹の狼が並んで走っている。

「…そろそろ、渓谷に差し掛かる頃か…ガラルド、一旦部下を休ませてやれ。」

「そうだな。ここまで走り通しだったからな。よし、ここで休憩にするぞ!」

ガラルドがそう言うと、部下達はすぐに馬を止めて野営を築き始めた。ガラルドも馬から降りた。