西の狼

二人は食事を止めて主人の話に耳を傾けた。


「………私が妻を得たのは、店を構えてから三年目の頃でした。あの頃は、本当に幸せだった……ですが……私達には、子が出来なかったのですよ……」






「………子が………出来なかった……?」




「じゃあ、イレールさんは………」




「…………あの子は、結婚してからちょうど二年経った頃に、店の前に捨てられていたのですよ……」




「捨て子……だったのか………」




「…………スイマセンッス………」




ロジャーは申し訳無い気持ちになり、肩をすぼめてしまった。



「いえ……あの子がいてくれたお陰で、私達夫婦はここまでやってこれた…………あの子には、感謝してもしきれませんよ………」




「………そうか……」









「………っと、私はお客様に何を話しているのでしょうな。それでは、ごゆっくり。」




主人は照れ臭そうに立ち上がって奥に戻って行った。





二人は再び朝食を口に運び始めた。



改めて回りの席を見回すと、どうやら半分くらいは埋まっている様だ。



席に料理を運んでいるのはもちろんイレールだ。





さっきまでは眩しかったあの笑顔も、今は少し陰りを帯びて見えた。





「………イレールは、自分が捨て子だと気付いているのかも知れないな………」




「え………!?ど、どうしてッスか?」





「…………あんなに悲しい笑顔は、俺は見たことが無い………」






「…………なんだか、寂しいッスねえ……」




「そうか?」




「え………?」







「家族なんてのは、そう簡単に切れたりしない。家族の絆は、そんな脆いものじゃない……」