西の狼

ダリウスはそれだけ返事をして部屋から出て行った。


ダリウスが扉を閉めてから真っ先にバルドルが声を荒げた。



「………ッ、エノク!!あいつを放っておいて良いのか!!」



「彼の行動に間違いは無い。それに、約束の皇子の覚醒は計画の中でも特に重要な位置にある。何も問題は無いだろう。」


「……しかし……」




「それに、彼はどうせ計画通りには動かないからね………」




エノクの小さな呟きを聞いていたのは、ニコラスただ一人だった。


















「………あー………暇だなあ………」





天井高くに魔法の光が浮かび上がって、広い室内全体を照らしている。
それ以外は、特に何も無い。

そんな部屋の中に、三人の人影が浮かんでいる。

その中の一人……気怠そうに床に寝転んだ青年が、気怠そうに声を上げた。


「………なぁ…俺ら、いつまでこうしてなきゃいけねぇんだ……?」




藍色の髪と深緑の瞳の青年は、横の壁に寄り掛かったもう一人に話しかけた。



「……さぁねぇ………どうせアタシ達は、ただの『実験体』だろ……?」



その人影は、燃える様に赤いボサボサの髪にオレンジ色の瞳の、背の高い女性だった。



「……ハッ、違いねぇ……」







「…………でも………そのお陰で…………生き残れた…………」




その声は、二人とは遠く離れた部屋の隅に膝を抱えて座り込んでいる少女の声だった。


少女は、薄紫の色素の薄い髪に、淡い紫色の瞳をしている。
更に肌の色も色白なため、どこか儚げな印象を受ける外見をしている。



「…ケッ……オメェは相変わらず大人しいなぁ、アリアン……」



「……………」





「………チッ………」




「止めなよ、ハイド……変に刺激して消し炭になりたか無いだろう?」