( ……町外れの小さなアパート。"サクラ荘"。
そこの104号室の住人は、
ヒトではない。
正確には、数十年まえまではヒトであったが、
この部屋で自殺を図り、そのまま恨みを残してこの部屋にとどまり続けている……)
「 如月センセ、ご飯の時間だよー?」
そう呼ぶ声に、俺はキーボードを打つ手を止めた。
振り返れば、女子高生が我が物顔で俺の部屋に上がり込んでいた。
「 おい、勝手に入ってくるな。」
俺がそう注意すると、
「 タダ飯食わせてもらってんだから、そんな怒んないでよ。」
と、言い返せないことを言われてしまった。
小説家になるという夢を追いかけ家を出た俺は、現在 この"さくら荘"というアパートに身を寄せている…
しかし
俺の書く小説は、世間にはなかなか受け入れて貰えず、貧乏暮らしを強いられ続けている。
そんな俺に
隣人の岡本さんはなにかと世話を焼いてくれる。
主にタダ飯。
そのお陰で俺は、今日まで生きていられたわけだ…
目の前に居る女子高生は、その岡本さん家のお嬢さんであり、夕方の飯時にはこうして俺を呼びに来るのだ…
「 ホラー小説?
へぇ〜、
このさくら荘がモチーフになってんだ〜」
女子高生 もとい夏海が、俺が先程打ち込んだ文章を見て楽しげに声を上げた。
「 おい、勝手に読むな。」
「 いいじゃん、どーせ 誰にも読まれないんだから!」
「 ………、」
本当のことなので言い返せない自分が情けない…
彼女の悪気の無い言葉は、芥川賞の選考並に厳しくもある…。