「えっと…

…結城さん…ですよね?」


記憶の隅にあった隣の部屋の表札を思い出してそう尋ねると、彼は静かに頷いた。

そして「結城 要」と短く呟いた。



それが彼のフルネームなのだろう…

私は心の中でそっと「ゆうきかなめ」と呟いた。




「君は…、」

「春日 さくらです」


彼が言いかけると同時に、私はそう答えた。



「…平さん…じゃなかったっけ?」


私の言葉に結城さんは不思議そうな顔をした。

そういえば、部屋の表札は平だった…。



「あ、えっと…平はお兄ちゃんの名字です。

えっと…両親が離婚して名字が変わって、今はわけあって一緒に住んでるんですけど…それで…」



どう話していいかわからなくて、上手く説明出来なかった。

そんな私の言葉に、結城さんは「へぇ」と気の無い短い返事をした。




「なんか、ややこしいな…。

面倒くさいから、さくらでいい…?」


「は、はいっ!」


突然名前で呼ばれ、

ドキっとした。