がたん ごとん。
そう音を立てて電車は平坦な道を進む…
窓越しに見えるのは
真っ暗な空
雨が絶え間なく降り続いていた…。
「 由貴子さん 」
ぼんやりと窓の外の様子を眺めていた私に、
そう声を掛けたのは、私の住むさくら荘というアパートの住人 お隣の204号室の佐伯君だ。
彼とはこうして、よく電車で乗り合わせることが多い…
「 仕事の帰りですよね、お疲れさまです。」
その優しい言葉と素敵な笑顔だけで今日1日の疲れも癒されてしまった。
5つ下の佐伯君は、イマドキの若い男の子とは思えないぐらい礼儀正しい男の子だ。
整った顔立ちに、美容師を目指しているだけあって カッコイイ髪型に、お洒落な服装。
ただでさえカッコイイのに、最近は特にカッコイイ…
それは何故か…?
それは彼が恋をしているからだ…。
少し前に203号室に越して来た女の子 桃ちゃん。
佐伯君は
彼女に恋をしてる……
…そして、
私が思うに、彼女も佐伯君に恋してる…。
つまり、両思い。
それに気付いていないのは、本人同士ぐらいだろう…
恋する2人は、とってもキラキラしてて羨ましいなって思う…
くたびれたOLの私には、恋なんて遠い遠い昔のこと。
一応 私だって彼氏は居るけど、お互いに忙しくて ほとんど音信不通。
もう自然消滅の域になりつつある…