9年付き合った恋人と別れた。



「 結城さん…


今日は、髪を切って欲しいんです…。

あの、ばっさりと…… 」


彼を忘れるためのきっかけが欲しくて、髪を切りに行った。

失恋の癒し方なんて、こんな古典的なことしか知らなかった。


私の注文に、担当の結城さんは

「 …この前、色入れたばかりでしょ 」

と、静かに言った。


そうだ。少し前に染めたばかりだった…

結城さんに言われて、私はぼんやりとそのことを思い出した。



鏡越しに栗色に染まった自分の髪を見つめた。


どうして染めたんだっけ…?

そんなことを思い出そうとすれば、答えはすぐに出た。


…彼に気付いてもらうためだ。



高校の時に付き合い出した彼‥歩は、働くようになってから私を見てくれなくなった。


仕事で合えない時が多いからと始めた同棲も、すれ違いの連続で、寂しさを増すだけのものになってしまった。

お互いに限界だったのだと思う…。



彼に別れ話を切り出された時は、辛かったけれど正直ほっとしたりもした。

もう苦しい思いはしなくていいんだって思った。



だけど、そうはならなかった。

ずっと苦しいままだった。


辛くて辛くて、そんなストレスで吐いた時もあった…。


だから、早く忘れたかった…




そんな私に、結城さんは静かに言った。



「 ……上手くは言えないけど、

無理して忘れる必要は、ないと思う… 」