「 結城さんは、恋人いますか?」


そう尋ねられて驚いた。


もう10年近く彼女と接してきたが、こんなことを訊かれたのは初めてだった。

そもそも、俺は彼女のことを知っているが、彼女の方には自分のことをちゃんと話したことがなかった……



「 …今は、いない。」


「 ってことは、いたことはあったんですよね?」


「 ……まぁ 」


「 ……その恋人のこと、どうやって忘れましたか…?」


「 ……。」


彼女の言葉に、俺は答えられなかった…。

どれだけ女性客を相手に仕事をしていても、こういう話は自分には向いていないのだと思う……。



「 …ごめんなさい。

私、彼が初めての恋人で…、


忘れ方っていうのが、いまいちわからなくて… 」


俺の反応を見た彼女は、鏡越しに申し訳なさそうに笑う。

俺は首を振った。




「 ……上手くは言えないけど、

無理して忘れる必要は、ないと思う… 」


「 …はい 」


俺の言葉に、彼女はゆっくりと頷いた。



「 じゃあ…、5センチだけ 」


と、彼女は改めて注文する。


5センチでも惜しいくらいだったが、俺は言われた通りに鋏を入れた……。




 昔のように

 彼女が
 笑えるようにと、


 柄にもなく
 俺は願った…