朝倉 瑠音という女性は、

《Re:Re》で俺が初めて担当した客だった…。



「 明後日、彼との初デートなんです 」

そう言って嬉しそうに語る彼女の髪に鋏を入れた時の感触は今でも覚えている…。


仕上がった髪を見て幸せそうに笑みを零した彼女に、俺はこの仕事を選んで正解だったと思った。

その日以来、俺は彼女の担当になった。


彼女は自分の髪をとても大切にしていた…。
恋人に髪が綺麗だと褒められのが嬉しかったのだと言っていた。



そんな彼女が


「 結城さん…


今日は、髪を切って欲しいんです…。

あの、ばっさりと…… 」

と、そんなことを言い出したから驚いた。


理由なんて訊かなくても、なんとなく想像がつく。

例の恋人と別れたのだろう……


ここ最近、彼女はあまり笑顔を見せなくなった。

そして、恋人の話もしなくなっていた。




「 …この前、色入れたばかりでしょ 」

店員失格かもしれないが、俺は彼女の髪を切りたくなかった。

染めたばかりだからと、そんなことを言ってやんわりと断りを入れる。


彼女の悲しげな顔が鏡越しに見える……



「 ……いいんです。

傷んだって、どうせ……


彼、染めたのも気付いてくれなかったんです… 」


「 ……。」



「 それに…、

もう振られちゃったし…… 」



諦めたように笑う表情に、俺はやるせなさを感じた。