知り合い…というのは、彼のバイト先の店長のことらしい。
さくら荘から車で5分。歩けば15分ほど掛かるその場所にその店はあった。
美容室《Re:Re》
黒と白のモノクロで統一された外観。
ガラス扉から見えるなかの様子は、静かな外観とは少し対照的な、明るい空間だった。
…と、そんなことを思っていると、カランとドアベルが音を立てて内側から扉が開いた。
栗色の長い髪の女
その女性は俺の良く知る人物だった…
「 …っ!?」
彼女の姿を見て俺は驚愕した。
しかしそれは俺だけではなく、相手も同じだった…。
「 ……歩 」
驚いた表情のまま彼女は俺の名前を口にした。
久しぶりに耳にするその声に、胸がぐっと苦しくなる……。
「 …広瀬さん、瑠音さんとお知り合いなんですか…?」
横で見ていた佐伯が、不思議そうに声を上げた。
その様子からして、彼と彼女‥瑠音は顔見知りなのだろうということがわかる。
瑠音がこの店をよく利用しているかもしれない…
佐伯の言葉に、俺は「あぁ」とか「まぁ」とか曖昧な言葉で返した。
「 …じゃあ 」
瑠音は俺と目を合わせようとはせず、小さくそう言って横を通り過ぎた。
この言葉にも、俺は「あぁ」と曖昧に返した。
これほど動揺するなんて情けないにもほどがある…。
「 佐伯君、悪い。
また今度… 」
「 えっ、広瀬さん…!?」
彼女の姿が見えなくなった頃、俺は佐伯に早口でそう告げて車に乗り込んだ。慌てる彼を気にすることも出来ず、俺はそのまま車を走らせた…