「 え?…お前んとこの幽霊のことが知りたいって?」

「 …あぁ 」


なぜそんなことを知ろうとする気になったのか、自分でもよく判らない。



ただアイツのことが知りたかったのか…、

それとも、このままアイツが成仏出来ないままでいるというのはあんまりだと思ったからか……。


理由はよくわからないが
俺は隣りの部屋の如月のもとに訪れ、アイツのことが知りたいと願い出ていた。



「 いや。俺に聞かなくても、アンタは直接見えて話も出来るんだろ?

本人に聞けばいいんじゃないのか 」


そう言って如月は不思議そうな顔をした。
確かに、この男の言う通り、俺はアイツの姿が見えるし話も出来る…

…が、肝心のアイツはなにも知らないのだ。自分のことは何一つ。名前さえも…



「 …アイツは、なにも覚えてないと言ってるんだ 」

「 そうなのか?

そこのとこ詳しく教えてくれ。小説のネタになりそうだ…!」


「 ………。」



目を輝かせる如月を、「 詳しくもなにも、それぐらいしか知らない 」と言って俺は撥ね付けた。


本当は、なにも知らないわけじゃない。

…ただ、なんとなく話したくなかった。秘密ぐらいしか俺とアイツが共有出来るものがなかったせいなのかもしれない。



「 俺に訊くより真上の階の徹に訊いてみろよ。確か、アイツはここに一番長く住んでるから 」





…如月に言われるままに、俺は上の階の佐伯の部屋を訪ねた。



「 幽霊のこと、ですか… 」

如月に訊ねた時と同じように訊いてみると、彼は困った顔をした。



「 僕がここに越して来た時‥4年前には、もうすでに居としか……

実際に見たことはないですし… 」


「 そうか… 」



4年前にはすでに居た…ということは、アイツの外見から考えると、生きていたら二十歳は越えているのだろう。もしかすると、俺より年上なのかもしれない…。



そんなことを考えていると、


「 僕の知り合いに以前ここに住んでいた人が居るんですけど、その人にも訊いてみますか?」


と、佐伯から思いもしなかった提案が上がった。