ソイツが言いながら指差したのは、桜の樹の根元だった…





「 ーーーっ!?」


口にしていた酒を吹き出しそうになるのを堪え、胃に流し込んだ……


心地よかったはずの酒の味が、酷く気持ち悪く感じられた…






『 冗談だよ 』


そう言って幽霊が無邪気に微笑む…




「 …タチの悪い冗談言いやがって…… 」


笑みを浮かべる幽霊に対し、苦々しくそう吐き捨てた。
冷たく吐いたその言葉とは裏腹に、心臓は激しく脈打っていた…





『 …本当はね、

私、自分がどうして死んだのかも、どこで死んだのかも知らないの… 』



幽霊は、俺に構うことなくそう口を開いた…



『 どうしてここにずっと留まり続けているのかも、

自分の名前も…、

私はわからないの… 』



「 ………。」



幽霊は寂しそうに言葉を紡いだ…




『 全部思い出せれば、成仏出来るかもね… 』


「 …そんなこと言って、おまえ成仏する気ないだろ。」



『 そうかもね。

ていうか、なんだかんだ言って歩も私に成仏して欲しくないでしょ?』



「 ………。」



『 ちょっとー!

なんで黙るのよーっ!?』


返事を返さない俺に幽霊が拗ねたように声を上げた。



『 そんなに私のこと嫌いなの!?

歩のバカー!!』



「 ………。」







"成仏して欲しいとは言ってないだろ……"



つい口から出そうになったその言葉は、酒と一緒に慌てて飲み込んだ…。