2年前くらいに、
この さくら荘に引っ越して来た我が家。
母は、上の階の武井さんの奥さんと仲良しになった…
そのきっかけは、武井さん家にも、私と同い年の子どもがいたからだ。
それが、
いっちゃん。
とはいえ、
私はいっちゃんとはまったく話をしたことはない…
だって彼は、
学校1の不良少年だもん…。
「 あらぁ、岡本さんたら冗談ばっかり。
ウチのバカ息子なんて全然 駄目よ、」
武井さんの奥さんは、おかしそうに笑う…
たぶん、ウチの学校でいっちゃんをバカ呼ばわり出来る人なんて居ない。
だから
母親ってすごいな って、密かに尊敬する…
私なんて、いっちゃんに「いっちゃん」なんて呼ぶことすら出来ない。
母たちと同じように彼を「いっちゃん」と呼ぶのは、心の中だけだ…
普段は、
「武井君」としか呼んでいない。
…でも、
そんな私だけど、
私は彼に恋してる…。
武井さんの奥さんが話す"いっちゃん"は、
学校で見る彼とは、まったくの別人みたい…
好物はハンバーグで、
意外と面倒見は良くて、弟の保育園の送り迎えをする。
捨て猫を拾って帰って来たこともある…。
…そんな
普段見る不良としての彼と、武井さんから聞く彼の話とのギャップに、
私はきゅんとなってしまうのだ…。

