「 …なぁ、引っ越しの荷物はもう片付いたのか?」


如月という男が、遠慮がちにそんなことを聞いてきた。



「…いや、それはまだ… 」


持って来た荷物はごくわずかだった。仕事ばかりで私生活への感心がなかったために、自分の物と呼べるものはほとんどない。

どうせすぐに片付いてしまうのだから、急ぐ必要もなかった……



「 …そうか、

それならあまり早くに片付けない方がいいぞ。」


「 …なぜ?」


意味の分からない言葉に、思わず眉を寄せて聞き返した…。





「 ……引っ越して来たばかりの奴にこんなこと言うのはどうかと思うのだが…、」



その言葉のあとに、少しの間をあけてから如月は小さな声で言葉を続けた







「 …出るんだよ、


………幽霊が…。」



「 …は?」




この男はなにを言っているんだ。

幽霊…?



…そんなものが本当に存在するとでも思っているのか。






「 …いや、信じろとは言わない。

…ただ、すぐに引っ越したくなるかもしれんから、荷物はすぐに片付けん方がいいと思ってな… 」



「 ……それはどうも、ご親切に…… 」



俺は早口でそう言い、その場から立ち去った…

幽霊なんて話、ばかばかしすぎて付き合いきれなかった。