小さなアパートの
1LDKの部屋を借りた。
駅から近かった事と、家賃が安かった事が、その部屋を借りる事を決めた理由だった…。
"さくら荘104号室"
…そこが俺の新しい住まい
桜の花びらを思わせるような、淡い桃色の壁。
そこは…、以前住んでいたマンションとは対照的に、温かな雰囲気の場所だった。
庭には大きな桜の木が植えられていて、もうすぐ満開と呼べるまでのものだった……。
「 …あんた、
もしかして104号室に越してきた人か?」
桜の木を見上げていた俺に、そう声を掛けた男がいた。
振り返れば、そこには縁側から庭に出てこようとする男の姿があった。
「 えぇ。今日104号室に越してきました広瀬です。」
そう言って俺が応えると、その人は人懐っこいような笑みを浮かべた。
「 俺は、如月。あんたの隣りの103号室だ。」
「 そうですか…、よろしくお願いします。」
隣人への挨拶なんて、始めてだった。
以前住んでいたあの部屋で隣人だった人間の顔を、俺はもう思い出せないでいた…。