夜桜と呼ぶにはまだ少しばかり早い桜の蕾をぼんやりと眺めていた…。
街頭に照らされた桜の木は、ここに住んでいた頃となにも変わらない…
…この桜の木を最後に見た時の俺は、まだ車も持っていない煙草も吸えないただのガキだった。
今こうして、
車にもたれ煙草を吹かしながらこの桜を眺めているのことが、なんとも不思議に思えた…。
「 …そーちゃん 」
さくら荘から出て来た結菜が、遠慮がちに俺を見ていた。
俺は煙草を消して、車のドアを開けた。
「 …帰るぞ。」
「 ……う、ん 」
結菜が不安そうな顔で頷いた…
「 …どうしたんだよ 」
「 …そーちゃん、私のこと怒ってないの…?」
「 …なんで?」
恐る恐るというように尋ねられて思わず俺が聞き返すと、結菜は「だって…」と、消え入りそうな声で言葉を続けた…
「 だって…、
私、わがままばっかりで、いっつもそーちゃんに迷惑掛けてる… 」
「 迷惑とか思ってねーよ 」
そう返すと、結菜は俯いた。
こいつは普段気が強いくせに、こいうことに関してはすぐに弱腰になる…。
今日みたいに、いきなり逃げ出すのはよくあることだった…
その原因のほとんどは自分であることは自覚しているものの、俺は結菜をお姫様のように扱ってやることは出来ない…。