ギア・ドール

 このご時世あまり珍しい病気ではないが、だからといって、そうそう平常を保っていられるものでもない。


 二年前の夏、海人はスラムの端で半壊状態の皐月と共に倒れているところをアルクに助けられた。


 それ以前の自分は何をしていたのか、本当の名前は何であるのか、自分は何者であるのか・・・・。


 必死に頭を悩ましたところで、出てくることは「海人」という名前のみ。


 これが、誰の名前であるのか・・・いや、何を示すものであるのかすら定かではない・・・。


 唯一それらを全て知っているのは、言葉を発することなく、静寂な地下倉庫で毎晩パイロットが搭乗をするのを待つ一体のギア・ドール。


 話を聞くには、あまりにも難儀な相手・・・。


 しかし、毎回マシーンに対してそんなことを思ってしまうことも、よく考えたら馬鹿げている。


 海人は、自嘲気味にニヤリと笑うと、自分の身長よりも高い皐月の足を軽く叩いて、背中のコックピットハッチを空ける。


 ピストンによって聞こえる空気の抜ける音。


 皐月の背中がパックリと開き、そこから真っ赤な非常灯が照らし出す、狭苦しいコックピットが見て取れた。


 海人は、約5メートルの位置についている、コックピットに台座を使って足をかけると、持ち前の運動能力を使って飛び乗る。


 シートベルトは一応ついてはいるが、息苦しいからあまり付けたくない。


 胸ポケットから鍵を取り出して、エンジンをかける。