ギア・ドール


「だから、他にも仕事があるやろう?スラムの中でも・・・猫探しとか、トレジャーハントとか?」


 自分でも無茶苦茶言っているのは、良く分かる。


「あるかよ?そんなこと。何夢見ているんだよ?そんな美味しい仕事あったら、とっくに紹介しているって!」


 暑さが嫌なぐらい身にしみる中で、よくもまぁ、喧嘩なんて出来るものだと自分で思う。


 それでも、四日連続のラーメンは、想像を絶するストレスだ。


 アルクと同じように、自分だって肉が食いたい。


 金・・・金さえあれば・・・・・・・。


「!」


 二人が、今すぐにも飛び掛りそうな顔でにらんでいると、唐突に部屋の隅においてある電話が鳴り出した。


 海人は、まだまだアルクに言いたいことがたくさんあったが、とりあえず机から立ち上がり、通信ボタンを押す。


 今の時代ではおよそ珍しくないテレビ電話。


 スイッチと同時に画面に映るのは、一人の化粧の濃い女性。


 青みかかった長髪にはソバージュがかけられ、大きな目と耳に垂れ下がっている大きなわっか型のピアスが、少しうっとおしい印象を受ける。


「なんや・・・菫か・・・。」


 海人は、それをみて、気張る相手ではないと判断して、机に戻ってポケットからタバコを一本取り出すと火をつける。


 わざわざテレビ電話で会話するのに、電話の前に立つ必要なんてどこにもない。


『いきなり酷い言われようね・・・。まぁ良いけど。それより、久しぶり』


 テレビの向こうの女性は、明るい声で海人に声をかけてくる。


 アルクにとってもはもっとも見たくない女性かもしれないが、海人にとっては同業者からの電話。


 無視するわけにはいかない。