ギア・ドール


 赤い非常灯がだけが照らす薄暗いコックピット。


 それに照らされて見えるのは、どうやって使うのか見当もつかない大量の契機たち


 レバーの数、ペダルの数も、私たちが普段乗っているギアの倍以上だ。


「ケィ・・・この機体、もしかして・・・。」


 鈴蘭が、皐月の背中から顔を乗り出して、正面にいるケィの顔を覗き込む。


「今から5年前、『アルク』って名前の先輩が作ったギアらしい・・・。オートマチックシステムを削るところまで削った、完全マニュアルのギア・ドール。ある意味、化け物が扱う機体やな。」


 冗談・・・。


 確かに、オートマチックシステムを排除すれば、多少の無理難題は聞いてくれるし、反射的行動も格段に上がる。


 一見すると、この機体は弱そうに見えるため、扱い切れれば威力は抜群だ。


 でも、こんなもの・・・本当に、操縦できる出来るヤツがいたら、相当の化け物だぞ・・・。


「ケィ君・・・もしかして・・・。」


 あのギアの成績は・・・。


「まぁ、こんな化け物の操縦を毎日練習してれば、オートマチックのギアなんて反応が遅すぎて、扱いきれんようにもなるわな・・・。」


 やっぱり・・・。


 訓練用のギアでは、ケィの操縦スピードについていけなかったのだ・・・。


 だから、あんなに成績の悪い結果になってしまった。


 戦闘機での成績が良かったのは、戦闘機はオートマ部分が少ないから・・・。


 なんという・・・ワガママ・・・。