ギア・ドール


 ポケットからタバコを取り出し、火をつけるエリアス。


 紫煙の匂いが、禁煙家の私の鼻を刺激する。


「なら、なぜエリアスは逃げないんや?」


 海人の当然の質問。


「医者が患者を見捨てて逃げては本末転倒だろう?」


 エリアスが当然のように答える。


「それもそうやな・・・。」


 それを見て、海人は本当に優しそうに笑うと・・・。


「別に、逃げたところで、何も変わらない・・・って言うのもあるんやけどな・・・。やっぱり悔しいやろう?・・・このまま負けっぱなしっていうのも・・・。」


 なんとなく、それが言い訳に聞こえたのは、おそらく私が女だから・・・。


 そんなことで、命を落としたらどうするというのだ?


「馬鹿馬鹿しいな・・・。」


 エリアスの素直な感想。


「なんとでも言えや・・・。」


 海人は否定しない。


「いや・・・お前らしいよ・・・。」


 エリアスはそう言うと、口元に軽く笑みを浮かべて、ポケットから一枚の紙を取り出し、海人に渡す。


「これは?」


「今のジンの居場所が書いてある地図だ。」