ギア・ドール


「入るで。」


 準備が整って、しばらく待っていると鈴蘭・・・もとい海人が病室に入ってくる。


 彼から鈴蘭はこの世界には残っていないと聞いた。


 しかし、どこかで未だ信じられない。


 ・・・・・・・どこかで、彼が生きている気がする・・・。


「あ、海人・・・。来てくれたんだ。」


 意外な来客に、思わず笑みがこぼれる。


 正直、来てくれるとは思わなかった。


 時期が時期だから、エリアスに住所だけ聞いて、一人で行くことを考えていたのだ。


「まあ、俺は暇やからな・・・。」


 そんなこと言いながらも、海人の目にはうっすらとクマが浮かんでいる。


 戦場となったスラムで、数少ないギア・ドールのパイロットである海人が暇なはずがない・・・。


「そっか・・・。」


 そんな虚勢を張る海人に対して、自分は笑顔を向けることしか出来ない。


 戦力にならない憤り。


 数多くの人が死んでいくのを、ただ見ているだけの悔しさ。


 記憶には残っていないはずなのに、ハッキリと分かる。


 ・・・・・・・・私は、過去にこんな経験をしたことがある・・・・・・。