作り者

私も、そしてその男もその流れと一緒に歩きだした。
「なんで?いいじゃん?!ケーキとか好き?いいお店知ってるんだけど、ちょっと行かない?ね?」
しつこく隣にくっついてきた。
「可愛いよね。目とかパッチリだし。よく言われるでしょ?」
その言葉にはっとして、私は心を決めた。そして、
「急いでるんで!!」と言って、もうダッシュで逃げた。逃げて、逃げて、走って、走った。こんなに一生懸命に走ったのは、きっと小学校の100メートル競争ぐらいではないかと思うくらいに・・。
 はぁはぁ・・。疲れたよぉ。もう嫌だぁっぁ。
女性の洋服がたくさん売っているお店にダッシュで入りこみ、鏡に映る私を見た。
 
  (ねぇ、あんたは誰?)

 私が、中学生だったころ、みんな思い思いの好きな雑誌を学校に持ち込んでいた。その中で、私たちのグループが心惹かれたものの中のひとつに、「アイメイク」というものがあった。そのアイメイクは、マスカラやアイシャドウ、アイライン、等の前に行うもの。
そう「アイプチ」。
 当時仲のよかった5人グループのうち、4人が全員一重だった。そして、その中での重傷者は一人。あとの3人は、微かな奥二重と、微かにラインが目の上にうっすら見える目、一重でもまだ大きな目、という三人ともタイプのバラバラな一重をしていた。
「ねぇ、これやってみようよ。」
「え、でも、ばれない?」
「別によくない?だって、二重のラインがつけばこっちのものじゃん。」
「んー」
「雛子は冒険心っていうものがないんだよ。やってみたらいいじゃん。」
「そうだよ。やってみようよ」
雑誌を見ながら、仲良し一重組みはあーだ、こーだと言い合っていた。唯一キレイな二重まぶたを持った千代美だけが、その次の作業。マスカラを丁寧に塗っていた。