作り者

私よりも年上だろう女性が、手をあげる。美恵子が笑顔を作りながらその元へゆく。私は空いたテーブルを急いで片付け、次のお客を中へと通す。注文はお水を出してからしばらくして聞きにいく。キッチンから、店長がバイトの男の子を呼ぶ。両手にパスタとサラダを持って、一人の男性の元へと向かっていく。太陽の日差しが、外のテーブルのグラスに当り、キラキラしてまるで宝石みたいだ。お客の顔も照らされて、白くつやっぽく見える。すみませーん、とどこからか声が聞こえる。私は、はい、ただいまと言いながら、伝票を取る。お客様とさりげなく会話をする。今日のお勧めのケーキは、今日はどこへ行くんですかぁ？最近、オープンが他でもしてうちも大変らしいですよ、なんでもいい。会話をする。
　お店の定員さんが可愛いとも評判のこの店。その中に自分も含まれていることを私は知っている。この偽りの私。秘密の私。

（ねぇ、あんたは誰？）
　お店の中に鏡はない。お店のドアに映る自分の姿に声をかけてみる。
（ねぇ、雛子はどれ？本物はどれ？）

　携帯には晴男からの着信履歴が数件。
街を歩けばまた声をかけられ、家へ帰れば皮を剥ぎ、朝がくればまたむくみを取り、ラインを作る。そして学校へ行き、バイトへ行き、晴男と会い、友達と会い、そしてまた皮を剥ぐ。
　繰り返す毎日の中で、確実に変化してゆく瞼の上。
いつの日か、この秘密が明らかになることを恐れている。

（ねぇ、あんたは誰？）

　その答えは、いつか出るのだろうか・・・。なぁ、雛よ・・・・。