「しっかりつかまれよーっ!!」

幼なじみのわたしの彼氏が「よし行くぞっ」と、掛け声を上げた。


「おーうっ!」

そう返事をしたかしないかで、走り出した自転車。



次第に漕ぐスピードが上がり、春の風が体中に体当たりしてくる。

こうして、彼の背中にしがみついていると。


幼い頃を思い出す。



まだ小さいわたしを自転車の後ろに乗せて、公園まで走るお父さんの背中。

大きくて広い背中に落ちないように必死にしがみついて…。


道路の凹凸や縁石の低下の僅かな段差に、くっついていた体が一瞬離れる時がものすごく怖かった。


『こわいーっ!!』

どんなに大声で叫んでも。


『あっははっ』

低い声で豪快に笑い飛ばして、大丈夫だから。って、よくわたしを宥めていたっけ…。

大きくて広かったお父さんの背中。

小さい頃はわたしの倍はあったであろうその背中にしがみつくのがやっとだった。

お父さんのシャツは降りた時にはいつもしわくちゃによれていたな。


今じゃ、大きかった背中もなんだか小さく見えるから不思議。

それだけわたしが大きくなったのかな…。



「おーいっ。ちゃんとつかまらないとーっ、落ちるぞーっ。ボサッとすんなよーっ」

風と一緒に漂って背中の向こうから叫び声が聞こえた。


「ごめーんっ」

そう答えて、腰に回した腕に力を入れ、ぴとっと背中に顔をつけた。


暖かくて優しい温もりに包まれる。



たまーに、お巡りさんに注意される学校の帰り道。



―今はお父さんの背中じゃなく、小さい頃から大好きだった彼の大きくて広い背中にしがみつく。


小さい頃はお父さんの広い背中が。

今は彼の大きな背中が。


大好き―。



【END】


2009.4.15