休み時間、ざわめく教室。

「一緒にトイレ行かない?」
と、友達の誘いを丁重に断って。

たった数分前に行われていた数学の教科書を開きっぱなしのまま。

一番後ろの席の私の目は彼を追い掛ける。


私と彼の距離、机6列分。


無意味に高鳴る胸の鼓動を隠しつつ…。

視界に彼を描き出す。



クラスメートの男の子達が黒板の前に集まって悪戯書きを始めていた。

飛び抜けて目につくクラスの、いわゆる“人気者”。

その3人のうちの一人に。


到底無駄な念力を送る。


『こっち見て。振り向いて…。私はここだよ』


こちらに背中を見せ、黒板に落書きをしている彼。

顔を皺くちゃにして髪を揺らし笑う彼に。


心の中でひっそりと唱える。


『一瞬でいいから振り向いて』


次の瞬間。

バッと振り向いた彼が教室のずっと奥に視線をずらす。


騒がしい教室内が静まり返ったかの様に耳が遠のく。



…ドキンッ。


弾かれた心臓は音を立て、ドキドキと疼き出す。


彼の瞳とバッチリ合わさる視線に、体が強張る。

呼吸さえも止まるくらいに…。



すぐに逸らされた彼の目は、また黒板へと移された。



再び私は心の中で願う。


『もう一度、振り向いて』


と…。



【END】