「はいはい、それ、食べられたらどうぞ」
由美子は含み笑いをしながら言った。
朱鷺は、おにぎりに目をやる。とても食べられそうにないが、真理を思い出した。あの時もおにぎりがあったっけ・・・
 
 やかんいっぱいのウーロン茶を半分ほど飲んで、トイレに通ったら楽になってきた。
何本もつけては、ゲェとすぐ消した煙草を、やっとまともに吸えた。
 「ごめんね、お金、ちゃんと返すから」
「トイチにしてやろうかしら」
「わぁぁぁぁ、許して」
由美子は、パソコンを閉じると、朱鷺の横に座った。
 TV画面では、朱鷺の知らない時代劇が流れている。由美子は自分も煙草をつけ、ゆっくり紫煙をくゆらした。由美子からはしゃべらない、気を使ってくれているんだ。こういう気の使い方もあるんだ、と朱鷺は思った。
 朱鷺は一人っ子である。そりゃあ好きになるのは、かわいい年下の子だが(真理は少し年上だったが)話す相手は、わりと年上が多い。意識してなかったが、兄さん姉さんを求めていたんだろうか。

 朱鷺は唐突に切り出した。
「俺がいなけりゃ死ぬ、っていう奴が、金ほしさにおっさんと寝られるなんて、どう思う?」
朱鷺の怒ったような言い方に、由美子は動じることなく言った。
「世の中には、『その人が好きなこと』と『金への欲望』は、きっぱり分けられる人がいるみたいね。あたしは、できないけどね」
「いるの、そんなの」
「だって、ほら、ソープのおねーさんなんか、身体売っているけど、彼氏いたりするよ、彼氏もソープ嬢だって知って恋人やっている人がいるよ」