俺が次の授業の教室に向かって歩いている時。
背後からものすごい殺気を感じた俺は思わず振り返った。
少し離れたところで突き刺さりそうなほどの視線を送っていたのは有城祥子。
悠斗の元・彼女だった。
昨日の今日でここに来た勇気は買うけど、女ってのはどうして当人ではなく、その相手に対して怒りをぶつけるんだろ。
俺に何を言ったって悠斗の気持ちが変わらない限りどうしようもないのに。
だいたいこの大学のセキュリティはどうなってるんだよ。
どこの誰でも出入りできる大学ってどうなんだ。
何が起きるかわからない今の時代セキュリティ対策はちゃんとしたほうがいいと思うんだけど。
まぁ、それはともかくとして、今目の前にいる問題を解決するほうが先決みたいだね。
「あの、ちょっとお話いいですか」
気迫に満ち満ちたオーラを醸し出しながら、俺から目を逸らすことなく俺の目の前に立ちはだかった有城祥子。
そしてその気の強そうな瞳で睨みつけるように俺を見据える。
「…いいよ。じゃあ、そこに空き教室があるからそこでいい?」
俺はそれをどこ吹く風といった感じで受け流し、彼女にニッコリ微笑んで見せた。
すると彼女はぎりりと奥歯を噛み締めるように悔しそうな顔をする。
彼女のその童顔とも言える、多少幼げな、かわいらしい顔が歪んだことを俺は小気味よく思いながらも顔には出さずに数メートル先の空き教室に足を向けた。