Cold Phantom [前編]

まぁ、絵に描いたような大家さんだなと感じたのは間違い無かった。
少なくとも俺の「アパートの大家さん」イメージにかなり近い物だった。

「それじゃあヒロ君、ここまで送ってくれてありがとね。」
大家さんが部屋に戻って暫く後、先輩は小さく手を振りながらそう言って部屋に戻っていった。
先輩の姿が見えなくなるまで俺も手を振り、そして家路についた。
幸い場所的にも俺の家とはそう遠くない場所にアパートがあったので、家路がちょっと遠回りになったとは言え送ってあげたかいはあったと思う。
成り行きとは言え初めて女の子と並んで帰ったのだから、それを考えると家までの距離なんてあって無い様なリスクだ。
「姫野先輩…か。」
帰宅途中で足を止め先輩の事を思い返す。
基本はおしとやかなのに、内に潜むお喋り上手な性格と2歳年上とは少し思いにくい程の大人っぽさも見え隠れする不思議な先輩だった。
その身長さえなければ童顔な大人な女性と間違えられる自信がある。
…何か、思い返していく度に然り気無く失礼な事を考えてしまった自分に気がついた。
違う、そんなことを言いたいわけじゃない。
そう、何よりも…
何よりも先輩の笑顔が一番印象に残ってしまった。