Cold Phantom [前編]

誰かが私の脳内に囁く。
またあの時の様な違和感を感じた。
でも、今回のはハッキリと原因が解る違和感だった。
(子供の声…こんな所で何で…?)
聞こえる筈のない声に本当なら気が変になる所なのに、私は妙に落ち着いていた。
この声は信じて良い…直感的にそう感じた。
でもまだ何か情報が足りない。
この声の主を知りたい、知りたくて仕方なかった。
演奏は中盤に入り、いよいよ目玉となるソロラッシュに入る。
サックス、トランペット、そしてトロンボーンと続く大掛かりなラッシュ。
サックスが立ち上がりあと数秒後には私の番が来る。
その間ですら私は声の主を探し回る。
私はまた里村君を見た。その時には既にサックスのソロが終わりかけになっており、私がそろそろ立ち上がる、そんなタイミングになった。その時だった。私は里村君の隣にいた男の子と目があった。私が立ち上がった事でその男の子も私を見ていた。
男の子もまた私に釘付けになる。その瞬間、心臓が激しくはねあがったかのような鼓動を刻み始めた。
そのタイミングを見計らった様にまた子供の声が聞こえた。

『演奏…聞いてみたいな。』
と…。
言われるがままに私はソロを始めた。