Cold Phantom [前編]

※※
「よ、よし…」
とうとう垂れ幕が上がってしまった。
緊張と同時にそれを包み隠せない程度の小さな気合いを込めて私は垂れ幕が上がりきるのを待った。
『観客の中の中心にいる人だけを見ていれば良いと思うわ』
頭の中で紗冬美の言葉が思い出される。
そしてそれに重なるように…
「真ん中の子、身長高いじゃない。」
隣にいた紗冬美がトロンボーンを片手に目を会わさずにそう言ってきた。
背が高い子…。
私はその言葉の意味を探ると観客の中央に集中する。
すると…
「あっ、あの男の子…」
私はその姿を見て少しホッとした。知人だったからだ。
「知ってるの?」
私の言葉に紗冬美は言葉を返した。勿論拍手に紛れ目線も合わさない程度に…
そう言えば紗冬美は里村君の事を知らないんだなと思い出す。
「この前、偶然知り合った子だよ。」
私は軽くそう答えると拍手が止まる。

…あれっ?
私は拍手が鳴り止むと同時に何か引っ掛かるものを感じた。
里村君に私の視線は無性に釘付けになる。
いや、里村君以外の何かが私を釘付けにしていた。
気になる。
何かが無性に気になった。
先生の指揮が上がるのを見て楽器を持ち上げた。